あらすじ
美瑛町にこの4月新しいリーダーが誕生、人口減少のリスクに向き合い持続するまちづくりを目指すと公約。持続とは、人口減少で減る分を補いバランスさせること。歯止めとなるものを生み出す成長戦略がこのまちに必要だ。そのための戦略的アプローチの考え方を、困難に立ち向かう人々と共有したい。
現状
新町長の4公約の中核は「未来につなぐまちづくり」だ。ほかの「みんなでつくるまちづくり」、「世界に誇るまちづくり」、「しあわせなまちづくり」のみでまちは持続できないから。
「未来につなぐまちづくり」をどう実現するか? 「活性化」とか「地域課題の解決」などこれまでの動きの延長に答えはないとおもう。それこそが今日の厳しい状況を招いたからだ。ちなみに、2045年の推計人口は6146人となっている。(注1)
戦略的アプローチへの転換
この厳しい局面を打開する戦略的アプローチが必要だ。戦略的とは、「このまちを持続させる」という目的がまず先にあって、そこに最適な戦略と効果的な戦術をぶら下げる考え方だ。
※ 戦略とは:目的を達成するために進むべき方向性、シナリオ。総合的な準備、計画、運用の方策。戦術とは:戦略を実現するための手段、オペレーション・作戦。成果を出すための具体的な方法。
目的とKGI
※Key Goal Indicator 重要目標達成指標 最終目標を定量的に評価できる指標
戦略は目的から始める。どこに到達したいかという合意だ。しかし、目的が達成したかどうか見えるものと見えないものがある。利益を倍増したい、北海道から人工衛星を打ち上げたい、月にひとを送りたい、は見える。だが、人口減少の未来において「このまちを持続させる」というのは見えない。
そこで、目的の達成をあらわす指標が必要だ。たとえば、「このまちを持続させる」という目的に、「いつまでに経済指標は〇〇にする」、「いつまでに将来負担を〇〇にする」、「いつまでに人口の社会移動の純増を〇〇にする」といった複数の指標(以下、KGI)を厳選してぶら下げる。
こうすれば、〇〇の数字が未達の原因が「目標が高すぎたか」、「戦略にぶら下がる戦術(個別事業)が効かなかったか」などと共有できる。原因がわかれば目的にむかってやり直せる。そうなれば、やらねばならない(MUST)高い目標を掲げることに迷いもなくなる。
まとめると、目的とKGIを明確に設定することが、人々の使命感と挑戦を促し、「選択と集中」「イノベーション」「創造的破壊」などを誘発し、社会の進歩につながっていく。
KGI
KGIは、目的を大きく動かす指標を3つほど厳選する。どうなれば「まちが持続しない」、どうなれば「まちが持続する」となるか?それをよくあらわす指標はなにか?いろいろな候補のなかから、論理的に最も上位にあるものを選ぶ。図1
選んだKGIに条件を付帯する。そして3つのKGIが〇になれば目的が〇となる関係を確認する。つぎにKGIの事例を示す。ーなおKGIを選んだプロセスは省略する。
(KGI-1) 20xx年までに、域内生産(付加価値)額ベースで〇〇億円の新事業を創出する
(KGI-2) 20xx年までに、財政の将来負担額を〇〇億円に縮小する
(KGI-3) 20xx年までに、人口流入と人口流出を均衡させ、20xx年までにプラス転換する
つぎに、うえの3つのKGIを日本語に翻訳し、戦略としてあらわした。~目的と並べた
目的:人口減少の未来においてこのまちを持続させる
戦略:新事業の育成と経済成長によって所得を高め、ひとが集まるまちにする
これだけをみた組織の人間がみな、おなじKGIを連想し、行動に移せることはできないだろう。だから、KGIのない戦略は言葉遊びに過ぎない。KGIと、KGIを日本語に翻訳した戦略を一体的に示してこそ意味がある。
KPI
※Key Performance Indicator 重要業績評価指標 : KGIを達成するための各プロセスが適切に実施されているかを定量的に評価するための指標
図2においてKGI(域内GDP)に複数のKPIがぶら下がっている。わかりやすく言えば、KGIを因数分解したものがKPIである。正確に言えば、KGIが目標を100%達成したとき、ぶら下がったふたつのKPIはそれぞれ、40%と60%づつ寄与している、といった関係にある。
そして、ふたつのKPIが40%と60%づつ寄与している分は、そこにぶら下がっている個別事業の効果によって決まっている。だから、個別事業の費用対効果をみるということは、KPI
ひいてはKGIにどれだけ寄与したかをみることなのだ。
すべての事業についてKGIやKPIで評価することは難しい。しかし、このまちの持続のために産業や経済を成長させるための投資については、企業で行うような綿密な事業評価を行うべきだ。予算の制約と目的の達成という点ではおなじだから。
企業におけるKPI(例)
図3は、企業において利益倍増戦略を考える時の論点をイメージ的にチャート化した例だ。蓄積したデータによって、KPIとKGIの相関をシミュレーションする。そして最も効果のたかい指標を見つけ、それを動かす事業に予算を配分する。つぎはシミュレーション例。
販売単価をいくら下げたら、販売数量と利益がどう変化するか
どの地域に広告(原価)を投下すれば、最も売上高と利益が増えるか
まとめ
行政はKGIやKPIを駆使した戦略的アプローチができないのではなく、やる必要があるとおもわないというのが正確だろう。予算を分配するという役割においてはそれもよい。
だがこのまちの持続性を論ずるなら、いまこそ戦略的アプローチが必要な課題、つまり目的とKGIを設定しなければならないものがたくさんあると思っている。
公共施設の維持管理に係る長期の財政見通しと取るべき戦略
生産性向上による地域経済の持続のための成長戦略
人口の社会移動純増のための戦略
観光の経済波及効果を高めるための投資戦略
地域における起業家育成のための戦略
農業の生産性向上に関する戦略
以上
Noriaki Gentsu @NorthQuest
注1) 国立社会保障・人口問題研究所は「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」 ー平成27(2015)年の国勢調査によるもの →リンク PDFの (1459 美瑛町)
注2) 地域経済を将来にわたり維持するには、成長戦略が必要になるという説明。下式において、左辺のGDPを一定としたとき、右辺の人口が減少のとき生産性は増加。 域内総生産(GDP)=(GDP ÷ 人口)× 人口 = 生産性 × 人口
Commenti