2024年、役場は多くのテーマで町民コメントを求め町民参加が進んでいます。中身的には問題がありました。「なぜそうしなければならないか」の本質を粗末にして、役場の進めたいことが先行するケースがあります。「説明不足だ」「拙速に進めすぎだ」「違和感がある」などが噴出し、本質の議論が深まらない背景に迫ります。役場に質問するヒントになればとの思いです。
目次
ドラッカーに学びましょう
まちの重要な政策を話し合う町民参加、あるいは議会でつぎのような発言がよく出てくる背景は何でしょうか?(町民コメント、一般質問など)
説明不足だ。説明責任を果たしていない。
拙速に進めすぎだ。なぜ急ぐのか。
違和感がある。
政策の本題に入るまえに、町民や議員がある種の抵抗を感じている兆候かもしれません。
抵抗感だとすれば、それはどこからくるのでしょうか?
重要な政策について役場に意見を言うために必要な情報が十分に与えられないことからくる、疎外感や抵抗感かもしれません。また、つぎのような感情が働いているかもしれません。
町民コメントのやりとりで、役場と町民の考えがかみ合いにくい。
議会の質疑応答で、役場と議員の議論がかみ合いにくい。
話がかみ合わないまま、時間が経つと役場の考えでものごとが決まって進んで行く。
では、町民や議員が役場に意見を言うために必要な情報とは何でしょう?
そこで今回は、近代経営の父と言われるP.F.ドラッカーが提唱した、問題の解決に当たっての戦略的なアプローチのエッセンスから、答えを探ってみましょう。
ドラッカーは著書のなかで、(解決すべき)真の問題を突き詰めて考える、問題をきちっとカタチにする(見える化)ことの重要性をふたつの言葉で強調しています。
正しい答えの前に、正しい問いを先に見つける。(正しい問いを優先する)
間違った問題に対する正しい答えは、修復が非常に難しい。(先に答えに飛びつかない)
1)正しい答えの前に、正しい問いを先に見つける
『仕事において重要で困難なことは決して正しい答えを見つけることではなく、正しい問いを見つけることだ。』 (P.F.ドラッカー)
"The important and difficult job is never to find the right answer; it is to find the right question." (P.F. Drucker)
これは、わたしが以前から皆さんに紹介している「課題共有フレーム」に重ね合わせると理解しやすいと思います。(下図↓)
(正しい問い)は、「課題共有フレーム」にある解決すべき課題と同じです。
(正しい答え)は、「課題共有フレーム」にある打ち手・アクションと同じです。
つぎに、経営や町政に活用するために上図の用語を、下図↓のように置換えてみます。
町政における(正しい問い)とは「町政における重要課題は何か」です。圧倒的な情報を独占的に持つ役場は、町民や議員にこれをきちっと(理解可能な形で)示さなければなりません。
町政における(正しい答え)とは、「町政における重要課題は何か」に対するアクションです。情報を持つ役場は、これが最適な(正しい答え)だと町民や議員に根拠とともに説明しなければなりません。
つまりドラッカーは、(予算と事業)あるいは(条例と制度)を論ずる前に、「町政における重要課題は何か」を見つけることが重要だと言っています。目的と手段を混同しないということです。
ここまで知識を入れたところで、「宿泊税・駐車場利用税の条例(案)」の町民コメントの現実を確かめましょう。
1ページ目(下図↓):このページに、役場から町民への(正しい問い)がありますか? いいえ、不十分です。「町民サービスへの影響」や「財源の限界」について数字で伝えていません。これは財源の問題なので(正しい問い)に数字が必要です。
2ページ目(下図↓):「財源のイメージ」は1ページ目の補足ができていますか? いいえ、不十分です。①またも数字がない、②問題をどの程度改善したいかが不明、③そもそもの発端となった「一般町民のサービス財源の維持」に焦点を当たっていない。
3ページ目から11ページ目:役場の望む(正しい答え)だけが書いてあります。町民には分かりにくいことばかりです。これに意見を言える町民は限られます。
ここまでで、役場は(正しい問い)=(真に解決すべき問題)の説明が不十分だと指摘しました。役場が真っ先に(正しい問い)として説明すべきことはつぎのとおりです。
2024年6月に立ち上がった観光振興の財源検討委員会が、町民にとって衝撃の事実を公表しました。観光振興のために8億円(町民ひとり当たりで84,000円)もの財源が、町民サービス低下となる格好で使われていること。
これでは将来の財政が持たないから、新たな財源を確保して観光と町民生活の両立を図る必要があるとして、委員会から答申案が出たところです。この案は短期でみれば、ドラッカーの言う(正しい問い)=(真に解決すべき問題)に近いと思います。
ところが、12月末に始まった町民コメント「宿泊税・駐車場利用税の条例(案)の制定について※」では(正しい問い)の意味では極めていい加減で、役場の考える(正しい答え)だけが詳しく強調されています。※資料は文末の参考資料から
とくに、役場にとって面倒な問いが意図的に省かれていると思います。
(正しい問い)=観光振興のための財源が町民サービスの財源を8億円も使い込んでしている現状を、短期的に中期的に、どんな手段でどの程度まで是正すべきか?
(正しい問い)=これによる税収の見込みが2億3900万円と試算しています。上記の町民サービスの財源の減少分の8億円とのギャップは、今後どんな手段でどの程度まで是正すべきか?
このように突っ込みどころ満載の資料で、これが(正しい答え)だ、町民はどう思うかと高いところからコメントを求めている感じです。
2)間違った問題に対する正しい答えは、修復が難しい
ここまで述べたように、役場が(正しい問い)を怠たると何が起きるでしょうか。ドラッカーによれば役場が困ったことになるのです。
『間違った問題に対する正しい答えは、修復が非常に難しい』(P.F.ドラッカー)
"The right answer to the wrong problem is very difficult to fix."(P.F. Drucker)
間違った問題とは何かについて補足します。
役場が(正しい問い)を示さず、町民に(正しい答え)だけを求めること。
役場の(正しい答え)が先にあって、(正しい問い)が後付けになること。
役場の(正しい問い)が抽象的で、町民は自由に解釈できること。
修復が非常に難しい、つまり役場がどう困るかについて補足します。
役場の(正しい問い)がないと、町民の意見は焦点がずれることもあるが主役だから(正しい答え)として扱わないといけない。役場とかみ合わない、あるいは平行線で紛糾したとしても無理に調整や集約はしない。
無理に調整や集約をしなくても、時間がくれば役場の答えが(正しい答え)として決まる。参加した町民に不満が残る。
こういったことを繰り返して町民や議員の不満が蓄積すると、その反動で、「説明不足だ」「拙速に進めすぎだ」「違和感がある」などと、真の論点とかけ離れた論争になりやすい。
ここまで述べたことを下図↓にまとめましたので参考にしてください。
このように基本を怠ったことで、ものごとがややこしくならないようにと、ドラッカーはつぎのように言っています。
たとえ完璧な回答であっても、それが間違った問題に対してならば、何の効果もない。
これは、最初に問題が何かを正しく確認することの重要性を示している。
間違って導いた答え(ソリューション)を修復(修正)するには、答えをはじめから求め直すよりももっと多くの努力を要する。
まとめ
情報共有と町民参加が進めば進むほど、役場は圧倒的な情報量とページ数で重要な政策に関して町民にコメントを求めます。町民はこれにひるまず、(正しい問い)=真に解決すべき問題は何かに集中すべきと思います。全ページをよむ必要はありません。つぎの数点が資料にあるかないかを見て、質問することだと思います。あるいは否定することで担当者の本気度を試すこともできます。
この事業がなければ、町と町民が今から将来に困ったことになるか?
困ったことを具体的に、数字で現わせるか?
この事業によって、その困った数字がどう改善するか?その時間軸は?
この事業の予算と財源は?
この事業が他より優先する理由は?
この事業の失敗のリスクと回避策は?
参考資料
条例の概要「宿泊税・駐車場利用税の条例の制定について」
町民コメントページ:「宿泊税・駐車場利用税の条例(案)の制定について」
ドラッカーについてもっと知りたい GLOBISの記事から
ドラッカーについてもっと知りたい Googleの検索「ドラッカー , 間違った問題の」
今回はここまでです。
2025-1-7 Noriaki Gentsu @ NorthQuest(ノース・クエスト)・・Quest=探求する
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