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(No.151)複雑な問題を切り分けて議論する|質問の技術⑦

執筆者の写真: NorthQuest |びえい未来ネットNorthQuest |びえい未来ネット

昨年夏からの観光税の議論をフォローして思うのは、役場も町民も問題の切り分けができていないことです。複雑なテーマの議論は皆が苦手です。中心市街地、美瑛高校、町立病院、施設の統廃合などのテーマがこれから続きます。町政の議論がかみ合うようにとの思いです。



 

目次

 

観光税で解決したい究極の問題は何か?

観光税について私は昨年からずっとフォローしています。導入には賛成の立場です。しかし、議論が進むごとに論点が絞られずに、むしろ発散して複雑になっていくと感じています。そう感じる理由は次のようにまとめることができます。

  1. 役場は町民に対し、観光税の導入に賛成か反対かの二択の議論を求めている。

  2. 役場は町民に対し、町の抱える究極的な問題(※)を十分に説明しないまま観光税の導入が必要だと断定している。

  3. 役場は町民に対し、観光税の導入で町の抱える究極的な問題(※)を十分に解決できるとの検証を示していない。


※観光税の究極の問題とは、『国の交付税制度により、観光客を受け入れるための予算を増やすと住民サービスの予算が減少する(7.8億円)という現状の制約がある』こと。



シンプルな論点に置換える

上で指摘した町の抱える究極的な問題(※)の議論は町民にとってハードルの高い論点です。ではこれを次のような問いに置換えて議論(質問と答弁)したらどうでしょうか?

  1. 今のままでは困ったことになるか?(なる、ならない、その根拠は?)

  2. 解決案によってそれは良くなるか?(なる、ならない、その根拠は?)

  3. その案は実現可能か?(できる、できない、その根拠は?)


こうすれば次の比例のように論点が絞られ、議論が深まり方向性が見えてくるでしょう。

  1. 今のままでは困ったことになるか?

    • なる:観光客増加による財政負担が続けば住民サービスの質が低下する。

    • ならない:現状維持が可能であれば、特に問題はない。

  2. 解決案によってそれは良くなるか?

    • なる:観光税導入により、観光客増加による財政負担が緩和され、住民サービスの質が維持される。

    • ならない:観光税が十分な財源を確保できない場合、問題は解決しない。

  3. その案は実現可能か?

    • できる:実施可能なプランがあり、適切な施行が見込める場合。

    • できない:法的・実務的な問題が多く、実現が難しい場合。


ちなみにこれはビジネスの世界で、あるアクション(役場の言う、制度や事業)が必要であることの検証(ディベート)を行うときの基本パターンです。必要だとの根拠を示さないと議論に負けて自分の予算がなくなりますからみな必死です。


上司は気持ち的に賛成であっても、部下の案件を厳密に検証するためにあえて反対を吹っ掛けるひとが多くいます。経営学者のドラッカーは「意見の不一致がないときは決定しない」とまで言っています。


ではこの知識をもとに、観光税についての今の議論がこのシンプルなディベートから外れて発散し複雑な方向に向かっている事例を見ていきます。



数字がなければ議論ができない

上で述べたシンプルなディベートの論点1.2.3において、賛成と反対の共通の言語は数字です。数字がなければ言葉は通じません。議論が始まりません。


では具体的に行きます。

  1. 観光税の説明資料の1ページ目には、「今後も増大が見込まれる費用を負担し続けるには限界があり、原因者である来訪者に負担を求めていく必要があります。」と記載されています。

  2. しかし「今後も増大が見込まれる」、「限界がある」、「来訪者に負担を求める必要」などの記載について、2ページ目のチャート(下図↓)も含めて具体的な数字の根拠が示されていません。

  3. 財政の問題は数値情報の提供がなければ町民は理解できません。役場はこのチャートを示して「今後も増大が見込まれる」、「限界がある」、「来訪者に負担を求める必要」と断定しています。町民はこれで「わかった」と言えるでしょうか?


役場の文書:町民コメントの資料の1ページ目。 詳細は文末の参考資料をみてください。
役場の文書:町民コメントの資料の2ページ目。 詳細は文末の参考資料をみてください。

何がどう良くなるのか分からない

上で述べたシンプルなディベートの論点2.の「よくなるかどうか」は、「それで十分かどうか」と「現在から将来にかけて良くなるか」とのふたつの概念を含んでいます。要はいろいろな考えの人を納得させるには両方とも必要となります。


では具体的に行きます。

  1. 同じ説明資料で、来訪者による追加的財政需要(答申案で7.88億円)に対し、令和6年10月の答申案では新税による財源で3.97億円(50.4%)の補てん、今回の案では2.97億円(37.7%)の補てんができるとされています。

  2. 観光客を受け入れるための予算が増え、町民サービスの予算が7.88億円分減少するという元々の問題はよくなりますが、「それで十分かどうか」と「現在から将来にかけて良くなるか」についての言及がありません。

  3. 役場はこの程度の情報で「今後も増大が見込まれる」、「限界がある」、「来訪者に負担を求める必要」と断定しています。町民はこれで「わかった」と言えるでしょうか?



目的と手段の混同

これは町民と役場が議論するときの認識の違いが現れやすい点です。役場は予算の視点、町民は町民生活の視点に焦点を合わせます。


駐車場利用税および宿泊税利用税条例の第1条(条文省略)では、観光目的地を一方的に強調した記載となっています。これを町民サービスの予算を減らさずに実現しなければならないという上位の目的(制約)の記載が欠落しています。町民生活と観光の両立を図るという本来の趣旨を明記することが望ましいです。


これは、当初財源検討委員会で町民生活への影響を含めた幅広い議論が始まりましたが、税務課が条文をつくる段になると、税金を集める手段が目的になってしまって、上で述べた町の抱える究極的な問題(※)はどこかへ行ってしまったとの印象です。



まとめ

  1. 自治基本条例の施行からほぼ2年。役場から町民意見の問いかけが多くなっています。これからも中心市街地、町立病院、美瑛高校の存続、小中学校の統廃合などのテーマがつづくでしょう。この際、町民が役場の論理に陥ることなく、冷静に質問を考える助けになればとの思いで投稿いたしました。

  2. 今回は(役場の言う制度や事業)が必要であることの検証(ディベート)を行うときの3段論法的な基本パターンを紹介しましたが、以前に説明した「課題の共有フレーム」とかぶりますので整理しておきましょう。下図↓


  3. 上記の「目的と手段の混同」に関連して経営学者ドラッカーは、行政組織や公共機関について、「目的のための手段であるはずの予算が、いつの間にか予算そのものが目的になってしまう」と指摘しています。具体的な引用としては、 「成果をあげるには、『成果』の意味を明らかにし、日々の活動の方向をそれに合わせていくことが必要である。あまりにも多くの組織が、予算そのものが目的になってしまう。」(ピーター・ドラッカー)という言葉があります。



参考資料

 

今回はここまでです。

2025-1-30 Noriaki Gentsu @ NorthQuest(ノース・クエスト)・・Quest=探求する

 
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