あらすじ
上川管内の宿泊観光の市場では、都市型観光やリゾートへの新規の投資が、数年で市町村の形勢を変えてしまう競争が進行している。美瑛町はこの市場で張り合う競争力はなく、弱みになっている。だから農業と景観を活かしたビジネスモデルが必要・・と判っても、経済と経営を考えずに行政が旗振りしてきた弊害を、まずは取り除く必要がある。
概要
北海道経済部観光局のデータから、美瑛町の観光戦略についての3C分析を行った。
※「観光ポータルサイト」に公開された市町村の観光入込客数報告書(資料編)
ー市場ー 2010年から2018年において、上川管内の宿泊観光が成長し、大きなビジネスチャンスが到来した。
ー競合ー 宿泊観光という成長市場の争奪戦は、旭川と占冠が勝ち、富良野と上川(層雲峡)が負けた。都市型観光やリゾートへの新規の投資が、数年で市町村の形勢を変えてしまった。
ー美瑛町の戦略ー 美瑛町にとって宿泊観光は、そこで張り合う競争力はなく、弱みになっている。強みである農業と日帰り観光の戦略に特化すべきだ。
単年度の争奪戦
2017年から2018年にかけ、上川管内で増えた宿泊客を市町村がどう分け合ったか、グラフにあらわした。(図1-Aに宿泊客、図1-Bに外国人宿泊客)
上川管内の宿泊客は前年から7万人増えた (図1-A)
上川管内の外国人宿泊客は前年から7.8万人増えた。よって日本人は、差し引き微減の勘定となる (図1-B)
美瑛町の宿泊客と外国人宿泊客ともに前年比横ばいだった (図1-A) (図1-B)
前年から増やしたり減らした市町村があることから、胆振東部地震によって美瑛町は微減(99%)したという説明は、当たらない (図1-A) (図1-B)
データでは、美瑛町の宿泊観光地としての競争力は限界を示している (仮説)
3年間の争奪戦
単年度のデータから、美瑛町の宿泊観光地としての競争力の限界を指摘した。その検証期間を3年間に拡げ、グラフにあらわした。(図2-Aに宿泊客、図2-Bに外国人宿泊客)
上川管内の宿泊客は3年前から31.7万人増えた (図2-A)
外国人の宿泊客は3年前から28.8万人増えた。よって日本人は、差し引き2.9万人増えた勘定となる (図2-B)
美瑛町の宿泊客は微減、外国人宿泊客は1.5万人増えた (図2-A) (図1-B)
ここでも、「美瑛町の宿泊観光地としての競争力は限界を示している」という仮説は成り立っている。
9年間でついた差
ここまで、上川管内の市町村による宿泊客の増えた分の取り合い(競争力)の面からみてきた。ここでは、市町村の宿泊観光の実績が長期スパンでどう変化したか、グラフにあらわした。(2010年から9年間のデータを、図3-Aに宿泊客、図3-Bに外国人宿泊客)
美瑛町が青い池ブームで湧いている間に、旭川と占冠村に新規の民間投資が入って市場の成長を独り占めした (図3-A)
特に2016年の豪雨のあと、2017年の旭川駅前イオンやホテルの参入など旭川における都市型観光の流れが、上川(層雲峡)や富良野から客を奪った (図3-A)
占冠村も、雲海テラスやトマムリゾートなど民間の投資とマーケティング力で集客し、富良野から客を奪った (図3-A)
外国人のデータはよりはっきりと、旭川と占冠村の急成長が、上川(層雲峡)を喰い、また2016年以降は富良野と美瑛を頭打ちしたことを示す (図3-B)
まとめ
上川管内の宿泊観光の市場では、都市型観光やリゾートへの新規の投資が、数年で市町村の形勢を変えてしまう競争が進行している。美瑛町はこの市場で張り合う競争力はなく、弱みになっている。
だから農業と景観を活かしたビジネスモデルが必要・・と判っても、経済と経営を考えずに行政が旗振りしてきた弊害を、まずは取り除く必要がある。
ヒト・モノ・カネを合理的に動かす戦略や経営ノウハウのない乱立した組織を、民間のまちづくり会社に結集すること。
その会社のミッションは、「強みの農業」と「強みの日帰り観光」を活かした新しい収益事業の創出と、まちの経済への波及にあること。
その会社の設立に要する、資本と運転資金をまち全体の基金として募ること。
資金の捻出のため、行政は前年実績を「コピペ」する予算配分をやめ、真に価値を生むものにゼロベースで配分するよう転換すべきだ。➀民間の事業、②新規の事業、③効果の確認された継続事業、④廃止するもの、といった新しい仕分け基準が必要だ。
(Noriaki Gentsu @NorthQuest)
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